私が旅を始める2年前。 私の住むヤマクニには、巫女隊という村を護る部隊がある。 余所の国で言う兵士と同じようなもので、私の母が指揮をしていた。 当時の私は巫女隊に所属していたが、弓の技術も術の技術も部隊内の皆より劣っていた。 母からは"慣れない事をするものではない"と言われており、全然に立たせようとはしなかった。 それほどに弱かった私は簡単に強くなりたいと願った。 そのような方法があれば、誰もが"その方法"行なっているはずなのに。 ──ある日、私は書物の中からヤマクニの"禁術"の事を知る。 それは"少人数で戦争に勝てるほどの強大な力"を持っている、と記されていた。 戦争に勝てる物があれば、他国から盗まれる可能性があるのに何も起きていない。 なので私は、そのような物がヤマクニにある訳がない。内心はそう思っていた。 ──しかし、それは本当にあった。 一般人からしたらただの巻物にしか見えない物だった。 1つはヤマクニの書物庫 1つは巫女隊道場の物置 1つは我が家の物置 私は誰にも内緒でそれを持ち出し、一人で封印を解こうとした。 悪い事だと自覚はしていたが、"術への興味"と"強くなりたいという欲望"のせいで歯止めが効かなくなっていた。 巻物の封印は3つ共に別々の封印が施されており、普通ならば解くのに時間がかかる──はずだった。 偶然と言ってもいい。私は全ての封印を解いてしまった。 眩い光と共に、封印の解けた巻物に記された術式が、私の体の中に染み込んで行った。 その後巻物は白紙になり、ただの巻物となった。 そしてすぐに、その事が母に見つかった。眩い光が発せされれば当然の事だろう。 「この術は自分自身を傷つける」と。 「自身を傷つけてしまうような術を使っては駄目だ」と怒鳴られ、巫女隊を除隊させられた。 …当然、家族としての仲も悪くなった。 当時の私は、家族としての仲が嫌悪化したのは良くは無かったが除隊させられた事は何とも思わなかった。 …"禁術"の事ばかりを考えていた。 "戦争に勝てるほど強力な術はどれほどの強さを持っているのか"と。 私は村の外で試しにこの術を使ってみると、目の前に巨大な盾が生成された。 ただそれだけだった。 身体への負担が大きかったものの、ただの盾が戦争に勝つ術なんて思えない。 確かに、1度使っただけで疲労感が襲い掛かってくるだけの術は、"自分自身を傷つける術"でしかないだろう。 私は使いこなすための鍛錬を始めようとした時に、1つの事に気が付いた。 ──他の術が使えなくなっていた。 ただでさえ駄目だった術の力が無くなって、弓の技術も上手くは無い。 少しだけ使える兵士から、何もできない兵士に成り下がったのだ。 何の為の"力"なのか。 何の為に"近道をしよう"としたのか。 そもそも、近道などというものはあったのだろうか。 自分で行なった事に悔しくなった私は、他の巫女隊員が行っている鍛錬よりも過酷な事を続けて、 「自分が間違っていた」と謝る為に──再入隊できる為に頑張った。 勿論成果はあった。 禁術の盾──"絶盾(ゼッシュン)"を展開してもそこまで疲労しなくなり、矢を射るの制度も格段に上昇した。 しかし他術の技術だけはどうにもならなかった。 今まで通りに力を込めても何も起きない。 そのせいか、再入隊を申し込んでも「術を使えぬ者は駄目じゃ!」と断られた。 弓矢の技術は優秀な者達と同等になったことを説明しても 「矢が効かぬ魔物に対して、お主は無力じゃろう?」と言われると私は返答できなかった。 どうしても巫女隊に戻りたいと思っており、申し込んでは鍛錬を繰り返していた。 中には、村の問題を自分自身だけ力で解決したこともあった。 だが、それでも母は認めてくれなかった。 そのような日々を繰り返し、気が付けば2年経っていた。 その影響か、弓矢の技術は村内で1か2番目の技量ほどにまで上達。…術は当然のごとく最下位だが。 私の居場所は、もうここに無いのかもしれない。 そう思い始めていた時、1つの旅人の団体が現れた。 とある依頼で彼らを手伝う事となり、彼らは私を頼ってくれた。心強いと言ってくれた。 ──旅。 誰もが冒険心を持ち、憧れている職(例外はあるが) 私も旅を始めることができれば、今とは全く異なる生活を始められるかもしれない。 それは巫女隊に居る事なんかよりもとても辛い事かもしれない。 でも、巫女隊に戻る選択肢のない私に出来る唯一の事だった。 旅の名目は適当で良い。「術の力を戻す事」でも「修行」でも良い。 私の手に入れた力が、人を守る事が出来るのならそれでいい。 ……そうか。私が望んでいたものは「誰かのために戦うこと」だったから私は巫女隊に戻ろうとした。 だけどもう、戻らなくともいいだろう。 私が村の為に働かなくとも、誰かがやってくれる。家事も基本的に母が行なっている。 私が居なくとも、この村の人々は今まで通りに生きていける。 依頼を手伝った夜、私は身支度を済ませ、書置きを用意した。 翌朝、私は村の外で待機して彼らを待った、 断られるかもしれないと内心思っていたが、私は勇気を振り絞って声をかけた。 「旅人の方々、私もご一緒してよろしいでしょうか?」 そして彼らは私を受け入れてくれた。 巫女隊の方々とは異なり、私は彼らの事を一切知らない。 だが、知らないものを知るということが旅というものだ。 きっとこれは、良い旅になる。 そう思い、私は彼らと共に旅を始めた。 ──私は誰かを守る為に、旅をしよう。