■第1話 起動 『──システム再起動』 …視界良好。破損部位…ゼロ。 私は今…現在地は不明だが、何らかのカプセルの中に居るようだ。 『ハッチ、オープン』 機械音声が響き、カプセルのような物体が開く。中に居ても仕方が無かったので私は外の世界に1歩踏み出した。 見渡せる範囲から見えるものは、鉄くずや鉄塊の山ばかり。おそらくここは廃棄所なのだろう。 …私は捨てられたのだろうか?そんな事を思考していた時に、1つの電波を受信した。 『全員の起動を確認した為、キミ達を外へ放り出した目的を伝えよう』 聴いたことのある男の声。…おそらく私を作り出した技師の内の1人だろう。 どうやら私達を破棄した訳ではないようだ。 『私達の目的は、キミ達メカニクルを"完璧なヒト"にする為だ』 それはあり得ない目的であった。 「そんな事できる訳が──」 受信しているだけのメッセージに意味の無い返答をしてしまった。彼らはそのまま発言を繋げる。 『キミ達は自身の力で思考する事が出来る最新型だ。研究所の記録だけでは豊富な知識を得ることに限界がある。  そこで外の世界で学ばせる事にした。そしてこちらが重要で、  この目的を達成させる為の技術はまだ試作段階である為、コストの都合上"完璧なヒト"に出来るは1体のみだ』 そもそも試作段階のものでよくそのような無茶な実験をやろうとしたものだ。 『その1体を選ぶ手法は何でも構わない。だが、キミ達は1点に特化したものであり性格も様々だ。  私達が選ぶべきものではないと判断した』 そもそも、ヒトになるメリットとは何なのだろう。元々がメカニクルである私達は疲れを知らず、痛覚も感じない。 ヒトを助ける為のモノ、ヒトに出来ない事をする為に作られた存在だ。 『──急な話で計算できない者も居るだろう。……そうだな、ヒトになる事で新たな物が得られるだろう。  触覚、味覚、嗅覚。これらは今の君たちには感じることが出来ないものだ。今よりも得られるモノが増えるという事だ。  そう、他のメカニクルには無いモノが、な』 …メカニクルは所詮機械。ヒトが持っている物を私達に機械に与えることで限りなくヒトに似せるという事だろう。 他より優秀なメカニクルになれるという事であれば、誰しもが得たくなるものだ。 …かくいう私も、得ることで発生するメリット・デメリットについて計算している。 『では本題に戻ろう。このヒトになる為の権限は奪い合い。  ヒトになりたくなければ、相手に譲ってもよし。  ヒトになりたければ相手の権限を奪う。ああ、壊してもらっても構わない』 その発言を聴いた時、先程の計算を止めた。 ──"壊してももらっても構わない"だと? 自らが作り出したモノを壊しても構わないなどと、私には労力を無駄にするその行為が理解できない。 『自らを大事にしてこのままを維持するか、他者より優秀になるか。君達は選ぶことができる。  そして選択した後、他の者達を闇雲に探そうとしても見つからないだろう。よって、カプセルの位置をキミ達に転送する。参考にしたまえ』 その発言と同時に、マップと共に、全部で9つのポイント座標が転送されてきた。 …ここから近い地点が1ヶ所ある。相手が好戦的ならば襲ってくる可能性があるだろう。 『最後に、カプセルの中に各々の武器を1つだけ付属しておいた。有効活用したまえ。以上だ』 発言と同時に通信が切れた。電波も飛んでいない。 …もしもヒトならば、持っていない物を得る為に戦う事か、今のまま生きる事のどちらを選択するのだろうか。 それを正しく選択できる方がヒトなのではないだろうか? …いや、今計算するのは辞めておこう。もしも襲われた際の対抗手段を手にしなければ。 私はカプセルの中にあった柄のような物を取り出した。 武器名シャルンホルスト。種類はビーム兵器と言ったところだろう。 所持しているメカニクルやロボットのエネルギーを消費してビームを発生させるタイプの武器だ。 試しに私のエネルギーを少量消費してビームを発生させてみる。見た目は細剣…レイピアのようだ。 主に突き刺す為の武器だが突起物全てがビームである為、斬撃としても利用することができそうだ。 この程度の小型武器で短時間の使用であれば、消費したエネルギーは私のジェネレーターで即座に再チャージが出来るだろう。 私はこれで、先日までの同志を壊さなければならないのか。 「…………」 …今、私は同志を壊そうと考えていた? あらかじめ、そのようにプログラムされていたのだろうか? であれば、近くに居たメカニクルは確実に接近していてもおかしくは── 直後、何らかの射撃音と共にカプセルの上部に何らかの物体が衝突する音が響いた。 発射音の発生元…鉄塊の上に白髪のヒト──いや、同志が居た。 「権利を頂きに来ました。文句は言わないで下さい」 「権利の譲渡は認められまして?」 「譲渡した後に強奪されては困りますので、その提案は承諾できません」 …私より優秀なCPUでも搭載されているのだろうか?もうそこまで考えているモノが居るとは。 「…アナタが好戦的ならば、仕方ありませんわ」 私は覚悟を決めて武器を構えた。…数分後には、どちらかが壊される。 「ワタクシはミドリの9──ノイン。機動力に長けている」 「白の4──フィーア。飛翔力に長けている」 私にとって望んでいない戦いが、始まった ▼続く